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大阪高等裁判所 昭和59年(ネ)2223号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

宅地建物取引業者と不動産業者間取引についての不動産仲介業者の責任に関する先例は、見当たらないが、不動産仲介業者の不動産業者(買主)に対する損害賠償責任につき、過失相殺を認容した先例として、名古屋高判昭36.3.31(高民集一四巻三号二一三頁)がある。参考文献として、明石三郎・不動産仲介契約の研究(一粒社)、同「宅地建物取引業者の注意義務」不動産取引百選所収等参照。

【判旨】

二前記当事者間に争いのない事実に、<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。

1 控訴人は、住宅の建築販売等不動産の売買業を営む会社で、その代表者は宅地建物取引主任者(以下「取引主任者」という)の資格を有するもの、被控訴人も取引主任者の資格を有する不動産仲介業者、磯前は自らは取引主任者の資格はなく、下崎善郎を取引主任者とし、磯前商事の商号で同じく不動産仲介業を営む者であつた。

2 昭和五五年七月一二日磯前から本件不動産が売りに出されている旨電話連絡を受けた被控訴人は、古い友人である藤田に連絡して同人と磯前の事務所へ行き、磯崎(ママ)とともに本件不動産を含めて三か所の不動産を見分した結果、本件不動産が一番良く、これを控訴人に知らせることとなつた。

3 翌一三日藤田から本件不動産が売りに出されている旨知らされた控訴人代表者は、その所在地へ赴き、更地にして建売住宅三戸を建築すべくこれを購入しようと思い、同月一五日、以前から仲介を依頼している知り合いの被控訴人に本件不動産買受けの仲介を依頼した。

4 被控訴人は、控訴人の右依頼を受託したが、予め、本件不動産の所有者である中井の住民票、不動産登記簿謄本を取り寄せ、かつ中井の自宅へ赴き同所に同人の表札が掲示してあり、同人が実在する人物であることを確認していた。

5 同月一五日被控訴人と藤田が、取引交渉のため磯前宅を訪れたところ、磯前は自己が所有者中井の代理人として契約するつもりであることを明らかにし、そのようないわゆる代理取引の経験がない被控訴人は不安を感じたが、同月二〇日頃、磯前から、中井作成名義にかかる磯前を売買代理人とする旨の委任状と題する書面(乙第七号証の原本)を見せられ、かつ代理人とされている磯前が同業者であるところからこれを信用し、磯前と交渉を進めた。右委任状は、後記のとおり磯前が中井に無断で作成した偽造文書であつて、もちろん中井の印鑑証明書は添付されていなかつた。また、右委任状に記載された売買物件の所在地番は、「大阪市東住吉区東鷹合町三丁目一二一番地の一」であり、本件売買の対象不動産の地番とは相違していた。

6 同月三一日被控訴人は、磯前から電話で、取引条件が一致しないので、かねて預託を受けていた交渉金二〇〇万円を返還したい旨の申出をうけたが、控訴人代表者の意向により、磯前に買付証明書を渡して取引交渉は続けることになつた。

7 同年八月五日磯前から契約が可能になつた旨の連絡があつたので、被控訴人と藤田は、磯前方を訪れ、その際、通常の売買形態どおり売主と買主の直接取引にするよう申入れたが、磯前から断られた。被控訴人は、それではこの場で売主中井に対し電話で意思を確認させてくれと頼んだが、磯前はこの申出も拒否した。被控訴人は、自己が会員である社団法人大阪府宅地建物取引業協会の倫理規定があるので止むをえないと考え(同規定一七条、一八条は、他会員の受託物件についての介入を規律する趣旨に過ぎないのに、被控訴人は、同規定は代理人の代理権限の有無を本人に確認することまで禁じたものと思い込んでいた)、磯前を信じて同人の提案どおり、売主側は代理人磯前、買主側は控訴人代表者の間で契約を締結させることとし、契約日を同月七日、代金は実測による土地の坪当たり六〇万円、総額約三六〇〇万円、手付金三〇〇万円、明渡及び所有権移転登記履行の日を同年一〇月七日と定めて取引をまとめ、その旨藤田を介し控訴人代表者に通知した。

8 同年八月七日午後、控訴人代表者、被控訴人及び藤田の三名は磯前方を訪れ、同所において、予め契約条項が記載されていた本件不動産売買契約書(甲第一号証)の買主欄に、控訴人代表者が控訴人会社のゴム印及び代表者印を押捺した。控訴人代表者は、本件契約が売主中井本人ではなく代理人によつてなされることを、藤田を通じて事前に承知していたが、右押印後に、代理人磯前に対する売主の委任状が契約書に添付されていないことに気づき、その旨を被控訴人に質したところ、被控訴人は自分が委任状の存在を確認していると答え、また磯前は、今妻がいないので委任状の保管場所が分からないと述べた。控訴人代表者は後日委任状の写しを自分に届けるよう求めたうえ、磯前に手付金として額面三〇〇万円の小切手を交付して前記合意内容どおりの売買契約を締結し、被控訴人は前記契約書に仲介人として記名捺印した。

9 しかるに同年一〇月五日頃、磯前から実測未了につき同月二五日まで取引を延期してもらいたい旨申入れがあり、不審に思つた被控訴人と藤田が同月二三日頃売主本人の中井方を訪ねたところ、同人は、同年七月頃までは磯前に不動産売買の仲介を依頼していたが、その頃仲介を断つた、委任状を同人に交付したことはない旨答えたので、始めて磯前が中井の委任状を偽造して手付金名下に控訴人から三〇〇万円を詐取した事実が判明した。そこで同年一一月六日控訴人は、磯前を私文書偽造等で大阪府東住吉警察署司法警察員に告訴したが、同人は前記三〇〇万円の返還をしないまゝ同五六年一二月死亡した。

以上のように認めることができ、<証拠>中いずれも右認定に反する部分は、前掲他の証拠と比較して措信し難く、他にはこれを左右するに足る証拠は存しない。

三1 一般に、宅地建物取引業者は、仲介依頼者に対しては、その依頼者が一般人であると、不動産業、宅地建物取引業その他の業者であるとを問わず、信義を旨とし、誠実に業務を行う(宅地建物取引業法三一条)とともに、受任事務の処理に当たつては、委任ないし準委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもつてこれを処理する義務を負う(民法六四四条、六五六条)ものと解すべきである。

もつとも、宅地建物取引業法七八条二項は、宅地建物取引業者相互間の取引については、同法三三条の二及び三七条の二から四三条までの規定を適用しない旨を定めているけれども、同法六五条が右規定等につき建設大臣、都道府県知事の監督を定め、又七八条一項が、この法律の規定は、国及び地方公共団体には適用しない旨定めていることに徴しても、同条二項の規定は、同業者相互間取引につき行政上の取締りを緩和するものに過ぎず、右規定があるからといつて、宅地建物取引業者相互間、宅地建物取引業者と不動産業者間などの取引については、仲介人は報酬請求権は有するが、宅地建物取引業法三一条、民法六四四条六五六条に基づく仲介人としての責任や注意義務が免除又は軽減されると解するのは、甚だしい勃理というべく、到底賛同することはできない。

2  すなわち、宅地建物取引業者が不動産売買の仲介をするに際しては、前記のようにその依頼者が一般人であると不動産業その他の業者であるとを問わず、当該不動産の現地調査、登記簿その他の資料調査はもとより、代理人との売買契約に当たつては、委任状、印鑑証明書等によつて代理権の存否、範囲を調査すべきはもちろん、もし右委任状等に疑いがある場合には、直接本人に照会する等の方法によつて代理権の存否を明確にし、その結果を依頼者に報告して、依頼者に不測の損害を及ぼすことのないよう注意すべき義務があるというべきである。これを本件についてみるに、被控訴人は前記のとおり代理取引の経験がないため不安を感じながらも、売主の代理人と称する磯前が同業者であることから同人を信用し、同人から売主作成名義の委任状(乙第七号証の原本)を見せられたのみで、同人が真正な代理権を有する代理人であると速断した。同書面には売主の住所、氏名の記載及び印影はあるものの、その真実性を証明する印鑑証明書の添付がなく、そのうえ本文には、「大阪市東住吉区東鷹合町三丁目一二一番地の一売買物件の一切の件」と記載されていて、右地番は前記のとおり本件売買不動産の所在地番と相違しており、代理権の範囲、内容も不明確であつたから、仲介業者たる被控訴人としてはこれらの点につき疑念をいだき、本人に右書面の真否、代理権の存否、範囲等につき照会すべきであつたのに拘らず、被控訴人は、同業者の団体である前記協会の倫理規程一七条、一八条は本人に代理権の存否をただすことをも禁じているものと誤解し、結局右の措置をとらなかつた。そして磯前の代理権の存否を心配した控訴人代表者の質問に対しては、本人作成の委任状があることを確認していると答えて安心させ、その結果、控訴人代表者は本件売買契約に基き手付金三〇〇万円を磯前に交付し、これを詐取されたものである。してみると、被控訴人の右仲介行為には、宅地建物取引業者が依頼者に対して負うべき善良な管理者の注意義務を怠つた重大な過失があり、そのため依頼者である控訴人に三〇〇万円の損害を与えたのであるから、被控訴人は、右債務不履行によつて控訴人に与えた損害を賠償すべき義務があるというべきである。

3  もつとも、控訴人代表者は、前記のように取引主任者の資格を有し、不動産売買を業とする会社の代表取締役として、不動産売買の経験を有する専門業者であるから、売主代理人と称する者と売買契約を締結し、手付金を交付するに際しては、たとい相手が不動産仲介業者であつても、自己の仲介人に代理権の存否をたゞすだけに止まらず、相手方本人の印鑑証明書を添付した委任状や権利書を提出させるか、それとも右仲介人をして相手方本人に対し代理権の存在を確かめさせるなどして、代理人と称する者の代理権の存否を確認したうえで手付金を交付するなどして、安易にこれを詐取されないようにすべき注意義務があつたのに拘らず、控訴人代表者はこれを怠り、代理取引の経験がない被控訴人から委任状の確認をした旨の答えを得たのみで同人を盲信し、その結果、無権代理人を相手方として売買契約を締結し、たやすく手付金を詐取されたのであるから、この点において控訴人にも過失があつたものというべく、前記認定の諸事情を参酌すると、過失相殺として前記損害金のうち三割を控除するのが相当であると認める。

(藤野岩雄 仲江利政 大石貢二)

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